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胸膜中皮腫について (⑥中皮腫の治療)

胸膜中皮腫について (⑤アスベスト吸入の証左)はこちら

胸膜中皮種の治療の前に、「がん治療」のおさらいをしておきます。「手術療法」「放射線療法」「薬物療法(含む免疫療法)」が昔も今も「がんの三大療法」です。

「手術療法」は、明らかに「悪い部分」とその周辺の「悪いかもしれない部分(悪くない部分も含む)」を外科的に切除する治療法です。しかし、あっちもこっちも切除するわけにはいきません。ですから「がん細胞の飛び火(転移)」のある場合は適応がなくなります(例外あり)。また、生命に関わる臓器の場合(例えば肺)、残された(肺)機能で生命が維持できなくなるような場合も適応がなくなります。

「放射線療法」は、体外(時には体内)から放射線を浴びせ、放射線の電離作用により細胞の構造(特に遺伝子)に障害を与え、がん細胞の増殖能を落とす治療法です。基本的には手術と同じ局所療法です。近年では「悪い部分にだけ放射線が届くよう」に照射方法が進歩し、局所的な大量照射が可能になってきており、治療成績も向上していますが、それでも周辺の正常細胞への影響は残ります。

「薬物療法」の薬物は、体内に入り血流に乗り、全身の細胞にいきわたります。「がん細胞はやっつけた」でも「正常な細胞もやっつけてしまった」では困ります。ですから正常な細胞とがん細胞の差を標的にした薬物が「抗がん剤」となりえます。

「旧来の抗がん剤」は「細胞分裂に必要な遺伝子の合成を阻害」する薬物が主流でした。正常な細胞にも比較的盛んに分裂する細胞があります。毛根細胞、消化管上皮細胞、骨髄細胞(白血球や血小板や赤血球などの血球細胞へ分化していく)などがそれです。ですから旧来の抗がん剤を使用すると、毛根細胞障害による脱毛、消化管上皮細胞障害による悪心嘔吐や下痢便秘、血球細胞減少による感染症(白血球は体の防衛軍)や出血(血小板は血管の修理屋)や貧血などの広範な副反応が起こり得たのです。

細胞分裂が制御されなくなる(がん化)原因にはいくつかありますが、ある種のがん細胞は遺伝子の変異等により、細胞分裂のスイッチがオン側に入りっぱなしになり、増殖を促す信号が持続することにより生じます。この増殖を促す信号を分子レベルで抑制し、抗腫瘍効果を発揮するのが、「分子標的薬」と呼ばれる、新規の抗がん剤の一群です。基本的には遺伝子変異等を有する細胞にのみ作用し効果発現するので、旧来の抗がん剤に認められていた副反応は目立ちませんが、「間質性肺炎」「皮膚障害」などの特異的な副反応がしばしば認められ、時に致命的なこともあります。

近年では「免疫チェックポイント阻害薬」も臨床で使われるようになりました。これはがん細胞に対する生体側の免疫を、がん細胞自身が無効化する機序(免疫チェックポイントト)に着目し、その機序を阻害することを目的に開発された薬物です。

がんの治療法は、「がんの種類」「進行度(ステージ)」「全身状態」に基づいて選択されるのが一般的です。「全身状態」は以下の「PS:Performance Status」という指標を用います。

まったく問題なく活動できる。発症前と同じ日常生活が制限なく行える。
肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる。例:軽い家事、事務作業
歩行可能で、自分の身のまわりのことはすべて可能だが、作業はできない。日中の50%以上はベッド外で過ごす。
限られた自分の身のまわりのことしかできない。日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす。
まったく動けない。自分の身のまわりのことはまったくできない。完全にベッドか椅子で過ごす。

さて、本題の胸膜中皮種の治療ですが、胸膜中皮腫は肺を包む胸膜腔内全体に広がることが多く、もし「手術療法」で根治を目指すならば、片肺と胸膜(臓側+壁側)腔をまとめて摘出する「胸膜肺全摘除術」という方法が必要になります。しかし、この術式は侵襲(体への負担)も大きく(術後死亡率5%以上)、その手術適応は体力的に余裕のある患者に限られているのが現実です。胸膜(臓側+壁側)腔のみを摘出する「肺剥皮術」もありますが、どちらの術式を選択するかは「外科医および病院の習熟度や経験による」とされています。

「放射線療法」は、「胸膜肺全摘除術」後の再発予防目的や、一般的症例の除痛目的で行われることがあります。

「薬物療法」ですが、「旧来の抗がん剤」に属する「シスプラチンもしくはカルボプラチン」+「ペメトレキセト」併用投与に、無治療に比し数か月の延命効果があると考えられており、PS0~2の症例での使用は推奨されますが、副反応もありPS3~4には推奨されていません。
「分子標的薬」に効果が認められた薬剤は、いまのところありません。
「免疫チェックポイント阻害薬併用(ICI)」と「上記の抗がん剤併用」の比較試験において、前者の優位性が認められ、今年の5月に二種類ICI「ニボルマブ」「イピリムマブ」の胸膜中皮腫への保険適応が認可されました。治療効果の改善が期待されますが、残念ながらそれでも完治は困難です。

次回は「労働災害としての補償」について述べます。

参考文献 肺癌診療ガイドライン 悪性硬膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2020年版 日本肺癌学会 編

複十字病院 呼吸器内科
内山 隆司

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