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市民健向講座アーカイブ

2023年市民健向講座「認知症~最新の治療について~」後編

2023年市民健向講座にて、認知症疾患医療センター長 飯塚先生を講師に、「認知症~最新の治療について~」をテーマにお話しさせていただいた内容の書き起こし記事の後編となります。

        

  1. 認知症の予防
  2. つながりの喪失と回復
  3. 登山のはなし
  4. これまでの認知症の薬
  5. 新しい認知症の薬
  6. アルツハイマー病では、蛋白質のゴミが溜まる
  7. 認知症と経済負担
  8. まとめ

認知症の予防


 さて、そうすると認知症の予防をどうしたらいいかというのが、はっきりしてきます。多様な刺激が脳を維持する。まずは、身体性ですね。これはちょっと詳しくお話しする時間がないんですが、「耐糖能異常」、つまり糖尿病になる手前のちょっとした血糖値の上昇のことなのですが、その状況になると脳のエネルギー源である糖分の取り込みが悪化するんです。実は脳だけじゃなくて、各臓器で糖分の取り込みが悪化するんです。血糖値が増えれば、脳の取り込みが増えそうな気もするんですが、逆なんです。ですから、血糖値は下げなければなりません。血糖は筋肉を使うと下がるので、なるべく、たんぱく質を摂って運動して筋肉を増やしていただきたいんですね。
 それから、次に社会性という問題があります。これは他人とのコミュニケーション。実はご家族がいくら気合い入れても、ボケ予防は出来ないんです。やっぱり周りに気を遣ったりとか、良いところを見せようとか、家庭ではそういったことはまずありません。なので、できるだけ色々なイベントに参加していただきたいと思っています。つまり、身体的な活動と社会的な活動を、なるべく活発にしていただきたい! 社会的な活動を通して、色々な人に会うと、それに対するネットワークも増えていく。つまり、脳が脆弱ではなくなっていくわけですから、ぜひやっていただきたいと考えています。実をいうと、後期高齢者以上の方はもうこれだけやれば、認知症はあまり進まないんです。だから僕しつこく言うのは、後期高齢者の75歳以上の方、で大体86,7歳ぐらいまで。それ以上の年齢になるとあんまり悪くならない。物忘れはあっても、身の回りのことはできるので、介護が必要にはならない。そうすると新薬も本当はいらないんですね。新薬は主に60代から70歳前後の方のための薬なのです。予防で何とかなる年齢の人には、しかも軽い段階で来られた方にはもう繰り返し言います。なるべく昼間は家から外に出てください。それからいろんな人と会う場所を作ってください。それが難しかったら、とりあえずデイサービス行ってくださいと。デイサービス嫌で他のところへ行きたいということであれば、習い事でもサークルでもいいので、何か見つけてくださいと。やったことのないことをやるのがとてもいいのです。例えば、80過ぎとピアノを始めたという方もいらっしゃるので。上手下手は関係ないので。そうすると、使っていない場所を使うことになるので、脳の回路が増えるわけです。それがいいんです。

 脳っていうのは、こういうネットワークでできてますので、これは高齢者になっても増やすことはできるんです。これを増やすには人づきあい増やすのが手っ取り早いです。つまり、人のつながりが脳のつながりに変換されていくということにもなるわけなんです。

つながりの喪失と回復


 繫がりを作るために、地域包括ケアシステムというのがあります。これがコロナでだいぶダメージを受けたんですが、幸いにしてですね。今日は本当に3年ぶり、4年ぶりぐらいでこうやって市民公開講座できたことを本当にうれしく思っています。


 このチームオレンジというのは、ある程度の研修を受けた方が、認知症の方々、あるいは高齢者の方々を支えるという、そういうチームです。


 それが清瀬で非常に活発に働いていて、この中清戸オレンジハウスというのは昨年のキャラバンメイトで、全国優勝したんです。これは実はこの空き家を市が予算を取って借り上げていただいて、常時使えるようになっているんです。
 今、毎週木曜日に活動されているんですが、実はここは本当に今日もいらしていただいている遠藤さんという、清瀬市から、東京都の認知症希望大使に今回就任されたんですが、その方たちが自主的にですね、この空き家を整備していただいて、自分たちが活動しやすい場所にしてくださいました。自主的にですね。これは本当に素晴らしいことです。ですから、デイサービスを用意するという、そういったところに会わない方、もっと軽い方は、自主的にいろんな活動するための場としてですね、清瀬市が用意していただいて、それを本当に有効活用していただいている方がたくさんいらっしゃいます。


 こんなクリスマスイベントで英語が得意な方がですね、いろいろ発音等を皆さんに教えてくださったりしてですね。私も実はちょろっと出て、ギター弾いたりもしてました。でこんな手作りのいろいろなボランティアの方が、クリスマスのお菓子を作って下さいました。

登山のはなし


 ここでちょっと気分転換で山の写真(八ヶ岳)を出したいんですが、清瀬もなかなか自然豊かな町ですけれども。私は登山を定期的にやっているんですが、その理由はですね、五感をなるべく使いたいということなんですね。近年は視覚情報過多の時代と言われています。実は五感のうちの視覚というのは、通常8割を占めるんです。しかし、今の時代は下手すると95%近くが視覚に行っちゃうんですね。通常8割方視覚で、1割聴覚で他の触覚とか嗅覚とか味覚とかっていうのは残りなんですが、もう圧倒的に視覚情報が多くて、それを脳が処理しきれない事態がどうも起きているのではないかという指摘があります。

 そうすると脳疲労を起こしたりとか不具合を起こします。例えばいろいろな自然の匂いがあります。雨が降ってきそうな匂いとか、夏の匂い冬の匂い、それから天気の変わりそうな雰囲気も体で味わうことができるんですね。それから山に行くともう一つ良いことは皆さん挨拶するんです。街を歩いていて、いきなり挨拶する人っていないと思うんですが、山は本当に普通に挨拶しますし、怪我している人いたら何かの手当てしてあげるとか、そういった助け合いも普通にあります。そういう社会性の養われる場なので、リフレッシュのために山に行くことが多いです。

これまでの認知症の薬


 これまでの認知症治療薬の話もちょっとしたいんですが、これまでの薬剤は神経伝達物質という神経と神経を繋ぐ物質を増やす薬なんですね。

 こういう神経と神経のつながりをシナプスって呼んでるんですが、ここを強力にするための薬なんです。この薬は神経と神経のつながりを作ろうとした時によく効いていくんです。つまり、ぼーっと1日朝からテレビを見たりとか、1日ウトウトしている人にはあんまり効果ない。どういう時に効果あるかっていうと、何か新しいことに、結構先ほどからお話ししていますけど、新しいことに出くわしたりした時とか、人に気を使った時とか、そういった時に効いてくるんですね。

 で、実はこういった薬はあまり効かないって言ってるドクターもいるんです。しかし、これ5年間の経過を見たやつなんですが、これは薬使わなかった場合基準値からちょっとずつ記憶力等が5年間で低下していきます。薬を使った場合なんですが、良くなってちょっと減って、その後維持できているんです。これ結構驚いたんです。実は点線のように効かなくなっていくというのが、このデーターが出てくる前の常識だったんです。じゃあ、なんでこんなに維持できるのかと。効くじゃないかと。

 では、自分達の、複十字病院のデータでやってみたんですよ。これはドネペジル。そうすると最初のスコア0とした場合に使っても効かない人、すぐ効かなくなっちゃう人。こういう人はそこでやっぱりやめざるを得ないんですね。漫然と使わないわけです。ところが、効く人は3年経っても十分効いているんです。つまり、効く人と効かない人の差が大きい薬なんですね。かぜ薬のように誰に投与してもある程度効くというものじゃないんですね。

 理由はですね。通常薬による治療っていうのは、日常生活が障害される疾患なので、生活が改善することを期待して使うんですが、あんまり効果がないんです。ところが、先に生活改善を始めちゃうんですね。その中身が身体的や社会的な活動なんですよ。昼間なるべくお家にいないってことなんですね。

それで、先に生活改善をしてから、薬物療法をその段階で始めると改善してきて、やる気も出てきて、集中力も高まって生活がさらに改善する。そういう、いいサイクルができてくるんですね。だから効く人と効かない人の差が、物凄く違います。ですから、私は日常生活のことを必ず伺った上で、いい生活をしている場合は、積極的に薬を使います。

 その根拠になっているのは、この認知症の予防作戦という、見直そう生活習慣となります。この予防作戦は30~40年前から変わらないんですが、最近これはやっぱり科学的に正しいということがわかって来たんです。
 一つはウォーキング。5分でいいから毎日外出ましょう。それから閉じこもり厳禁。ステイホームの正反対ですね。出不精の人ほど認知機能低下リスクがあります。趣味や社会活動に参加しましょう。人と交流して、適度な刺激、緊張感を受けましょう。新しいことにチャレンジしましょう。さあ外に出かけましょう。
 これやっていただいている方にお薬はよく効きます。今の薬でもですね。特に75歳以上の方です。しかしですね、もう一生懸命やっても進んじゃう年齢ってあるんですね。例えば50で発症したりとか、60で発症したりとか、そういった方に関しては一生懸命これやっていただいても、それでも進んでいくと。これはやっぱり特効薬はどうしたって必要という話になっていきます。

新しい認知症の薬

 これが新しい認知症の薬です。一般名はレカネマブと言います。アルツハイマー病の病原タンパク質を脳から除去する。そういう効果です。

 アルツハイマー病ってこのように脳が縮む病気です。特に海馬という新しい事を覚える場所が縮んでくるんですね。

 その病原物質は二つあって、一つはアミロイドβというこれはアミノ酸40ぐらいの蛋白質なのです。非常にかたまりやすい蛋白質で、脳のあちこちに塊を作ってべたべたくっつくんですね。
 その次に、右の写真。これはアミロイドベータのベタベタくっついたアミロイドが、老人班とも呼ぶんですが、その脇で神経細胞が立ち枯れした木のようになって死んでしまうんです。これは神経細胞死を起こすタウ蛋白というのは、これは細胞骨格タンパクで、神経細胞を支える柱みたいなタンパク質なんですが、これがぐちゅぐちゅっとこう凝集して固まってしまうから、神経細胞は死んでしまうんですね。

 アルツハイマー病の脳っていうのはまずアミロイドβというのがたまって、これは病原性があるわけです。そのあと、タウ蛋白っていうのが凝集して神経細胞死、神経細胞が死んでしまうと、隙間が空いてくるのでの脳萎縮ということになります。

 そのアミロイドベータが溜まるっていうのを、実はもうだいぶ前から、15年ぐらい前から、アメリカのピッツバーグ大学が最初だったんですけれども、これはアルツハイマーDS、アルツハイマー病、アミロイドを赤く、赤とか黄色で出てくるんです。これは正常の方には映らないんですね。でこういう前頭葉とか頭頂葉のうしろとか後部帯状回とか、要はアルツハイマー病で血流が減る場所とぴったり一致してアミロイドがたまってくるんです。
この検査は、複十字病院でもできるように準備しています。

 アミロイドとタウの溜まり方の経過のグラフです。アミロイドβですがは、軽度認知障害という、認知症まで進まなくて、身の回りのことをできるんだけど、ちょっと忘れっぽいっていう段階なんですが、その時点で、ほとんど溜まりきっています。つまり発症前には、ほとんど溜まりきっているんですね。タウがおかしくなるっていうのは、神経細胞が死ぬわけですから、これは症状と相関してくるわけです。症状が悪くなるにしたがって、タウもどんどんどんどん悪さをすると。いつ治療するかといったら、軽度認知障害の段階で始めて、特に中等症にいっちゃったら止めないといけないわけです。ですから、何が変わるかというとですね、早期診断の重要性が高まるんですね。だから早く来ていただく。
 つまり、認知症が進んだから、最近大騒ぎするようになったからとかっていう段階で来ていただいても、進んだ段階なので使えないんです。それと先ほどもお話ししましたけど、後期高齢者以上の方っていうのは、先程の予防をしっかりやっていただければあんまり悪くならないんですよね。ですから、本来必要な方っていうのは60代から70歳前後の方ですね。そうすると全体の5%以下なんです。ですから、すごく治療費が高いんではないかと言われているという方もいらっしゃるんですけど、そんなことないんですね。介護費用のよっぽど高いんです。

認知症と経済負担


 ここでちょっと認知症にかかるお金、経済的な問題について、最後にお話ししておきます。2014年の認知症にかかる医療費1.9兆円、介護職専門職が介護する介護費6.4兆円、それからこれはここ大事なのですが、家族が介護をするインフォーマルケアコスト6.2兆円。これは要はご家族が介護に関わらなかったら得られたはずの収入が得られなくなった分が6.2兆円なんですよ。要はご主人とか奥さんとかケアするために仕事を辞めた。その分の本当はもらえた収入が6.2兆円。そうすると、合算すると14.5兆円で中身は87%が介護費用なんですね。で、しかもその一人あたりの介護費用は年間300万円なんです。この時点で大体500万人ぐらいの認知症患者さんいましたが、介護を要する方は大体200万人から250万人ぐらいなんですね。現在も600万人いて300万人介護という状況になっています。
つまり1年間の介護費用が、レカネマブ大体200万円から300万円と予想されてますけれども、その間の介護費用よりも安いぐらいなんですね。もしそれが効いたらですね、介護費用は場合によっては特に若い方になると、これ10年じゃきかないんですね。20年ぐらいとかの場合もあるので。やはりレカネマブを高いと言っている人は介護費用と比較した上で言ってくださいと、私は本当に言いたいです。専門家でもそういうことを平気で言う人いるので。しかも、2030年には認知症患者800万人超えで、医療介護費用も21兆円なんですね。ですから、こういったことからしてもですね、早期で特に70歳前後ぐらいまでの方は本当に早い段階で来てほしいんです。どれぐらいの段階で来たらいいですかという声をよく聞かれるんですが、何か変だなぐらいで来ていただいていいです。実はですね。15年ぐらい前に弁護士さん、法廷での弁論がちょっと怪しくなってきたというので、来られたんですね。いろいろテストをやっても全部満点なんですが、脳血流シンチっていう脳の血流を測る検査をやったら、アルツハイマー病の初期兆候がちょこっとだけ出てるんですね。あ、これアルツハイマーだなと思ったんですが、当時はレカネマブもなかったので、やっぱり進んでしまいました。
 それから、軽度認知障害というのを最初に提唱したモリスという方は、長谷川式とかっていうスコアで決めるんじゃなくて、スコアというようなのは、もともとの能力が非常に高い方は少々機能が落ちても満点取れるんですね。それよりも、今までとちょっと違うという主観的なものでいいと。あるいはご家族が見た主観的なものでいいということで、なんかちょっと変だなと思ったら来ていただいて。
一方、診断はですね、症状が出る2年前には脳血流シンチでも診断できますから、その上でレカネマブが適用になるかという検査をやっていくことになりますので、本当に認知症が進んだから診てくださいという時代ではなくなるという、今年は非常に我々専門医の間でも会って話をすると、もう今年が転換点だねと。それからレカネマブより良い薬がまた出てくる可能性があるんですよ。ですから、この薬が3年くらい進行を抑えたとしたら、その間にもっといい薬が出てくる可能性がありますよね。それからそれこそタウを治療する薬も出てくる可能性があります。それがこれからどんどん出てくる最初の薬、ということがつい今週承認されるということで、本当に使えるようになるのは来年早々ぐらいだと思うんですけれども、うちの病院は使える準備をしてます。いろいろな資格も取っていますので、その辺、また改めて2月に市民公開講座を、2月17日ですね。場所はコロボックル。また、清瀬市でもっと正確な話をお伝えできると思いますので、ぜひ皆さんにお伝えください。

まとめ


 最後です。後期高齢者の認知症は生活習慣病なんですよ。しかし、55%がなっちゃうので、私は絶対大丈夫!と言える人はいないんですね。認知症もパンデミック化してきます。しかし多くは予防できます。身体的社会的活動。逆にステイホームで脳委縮と。家にいる時間が長いと、忘れっぽくなって怒りっぽくなって被害妄想になります。認知症新薬はアルツハイマー病の病原タンパク質を脳から除去し、進行を抑えるタンパク治療薬です。あと、もう1つですね。手前味噌になるんですが、私が書いたちくま新書の「認知症パンデミック」、ちょっとこの辺の本屋は置いてあるかどうか分かんないんですが、うちの病院のコンビニには置いてあります。あと大きい本屋だと置いてあるので、良かったら内容を見て、読んでみたいと思っていただけたら嬉しいです。

 
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