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市民健向講座アーカイブ

2023年市民健向講座「認知症~最新の治療について~」前編

 2023年9月30日(土)に、清瀬市生涯学習センター7階アミューホールにて複十字病院市民健向講座を実施いたしました。ご来場いただいた皆さま、ありがとうございました。
 
 本ページでは、認知症疾患医療センター長 飯塚先生を講師に、「認知症~最新の治療について~」をテーマにお話しさせていただいた内容のうち、前編として以下の項目についてご紹介いたします。認知症について知りたい方はぜひご覧ください。

前編

  1. 認知症はどれくらい増えるのですか?
  2. 認知症とは?
  3. IADLのアセスメント
  4. ADLのアセスメント
  5. コロナ禍の認知症への影響(増える患者)
  6. 閉じこもりは脳を萎縮させる
  7. 集団のサイズと脳の大きさ
  8. 社会活動と認知機能

認知症はどれくらい増えるのですか?


 まず、認知症はどれぐらい増えるのか。実は認知症が世界で一番問題になっているのは日本です。2026年には高齢者の5人に1人で730万人の予測。これは12年前ぐらいの予測です。これまで認知症の患者数の予測というのは、予測を修正するたびに数が増えていきました。ですから、今後さらに上方修正することも十分もあり得るんです。それから九州大学の久山町研究というのがあるのですが、高齢者の55%は生涯に認知症になるという。55%ということはですね、ここにいらっしゃる皆さんの半分以上なんですね。要は「私は絶対大丈夫」って言える高齢者の方は一人もいないってことなんです。なので、75歳を過ぎて生きた方は誰もがこれを予防しないといけないんです。55%の人がかかる病気というのは、特殊な人がなる病気ではないんですね。これは加齢に伴う生活習慣病がほとんどです。なので、実をいうと後期高齢者の方の加齢に伴う生活習慣病の方は、後でお話しする新薬は必要ないんです。実は予防法をしっかりやっていただいて、今まで使用してきた薬を追加するだけで十分なのです。大体80代後半から90過ぎていくと、あまり進まなくなるんですね。
 認知症が困るのは介護が必要になることなんです。トイレもできないとか、着替えもできないとか、周りの人に手助けしていただかないと身の回りのことができなくなってしまう。そういう疾患なので、介護が非常に大変なんですね。でも、その大半は予防できるんです。でも、コロナ禍では、さらに認知症患者は増加しています。何故でしょう? 閉じこもったからなんですね。ステイホーム。後で予防法のお話しますけど、認知症の予防は、閉じこもりの正反対をやるということになります。

 65歳以上の人口比率というのは実は日本はですね、大体2000年ぐらいからここには出ていないんですけれども、イタリアを抜いてトップに躍り出ていて、その後独走しています。これにいずれ追いつくというのが韓国と言われていますが、韓国は日本の人口の半分で、それでまだ認知症患者数は100万人いってないんですね。ですから、韓国人の認知症専門医に、これからどういう対策を打ちますかと訊くと、日本の様子を見てから決めますと言われました。大体15年遅れで日本に追いつくからです。ただし、韓国はまだ人口少ないからいいんですけれども、ものすごく問題なのは中国なんですね。30年後ぐらい中国が日本に追いついていきます。人口が多く、一人っ子政策もやってますから、将来大変なことになりますね。世界を巻き込む可能性が出てきます。それでも、とりあえず今現在は、日本が一番問題になっています。

 下の久山町研究の55%の根拠ですが、17年の追跡調査のデータから数理モデルで計算して55%ということが分かりました。
これは10年ぐらい前の報告です。

認知症とは?


 認知症とは何か?というちょっと基本的なところに一旦戻ってみたいんですが、記憶力、判断力、会話能力などが低下するというようなことは皆さんもご存じだと思います。もう一つはせん妄がないという条件があります。せん妄っていうのは大体高齢の方が体の調子が悪くなって、普段とは違う環境の病院に入院されて軽い意識障害を起こして混乱するという状況なんですね。この状況で、本来の脳の機能を測るっていうのは不可能なんです。それで、何で判断するかというと、日常生活での生活障害がどの程度かと、そういう普段の生活状況から判断していきます。

IADLのアセスメント


 認知症の症状の本質的な部分というのはこういう「日常生活に必要な動作」ができなくなることです。IADLは若干複雑な日常生活動作なので、手段的日常生活動作と言われていますけれども、お金の管理だとか服薬管理とか掃除洗濯とかそういったことですね。これはまず物忘れが出てからすぐに、こういったことがなかなかうまくいかなくなります。

ADLのアセスメント


 その先に1、2年放っておくと着替えができない、排尿排便できない、場合によってお風呂とか廊下でやってしまう。服を渡しても、袖をどうやって通していいかわからない。簡単な手順すらできなくなってしまうんです。これを「実行機能障害」と呼んでいるんですが、前頭葉という頭の前の額のあたりが関わっているんですけれども、そこが障害され始めると、これができなくなって結局介護が必要になります。そうすると、この介護をご家庭でやるっていうのは不可能です。認知症患者の体は元気ですから、夜中どこか出ていっちゃう。そういうことももちろんありますし、例えば末期がんの患者さんでしたら、あと3カ月や半年は介護を頑張ろうって思えるんですが、認知症では、あと5年10年、場合によってはそれ以上ってことになりますから、施設に入ることに残念ながらなってしまいます。

コロナ禍の認知症への影響(増える患者)


 コロナ禍の影響なんですが、この点線で囲んだところ。ここは最初の緊急事態宣言の時ですが、受診者数がずいぶん減っています。その二か月のステイホームの後、いきなり受診者数が増えているのは、新しく発症した患者さんも増えたんですが、今までデイサービスとか地域のいろんなイベントに参加していた人が、活動が一切できなくなって、家に閉じこもって症状が悪化してしまったんです。昼間に家にいる時間が長いと、物忘れが進んで怒りっぽくなって被害妄想が出現します。ですから、我々も相談に応じるときに、昼間どういう生活をしているかということなので、それを詳しく伺います。そして、まず我々の外来に来ない方というのは、農家の現役の方です。ほぼ来ないですね。90歳になっても来ない。まず、早起きして天気の状況を見て、畑でどういう作業をするかというのを決めて、1日体を動かして、通りがかる人とは大体おしゃべりをします。それから農協にも行きます。夕方はもうくたびれて早く寝ます。なので、昼間家にいる時間はほとんどないんですね。そういう人は、まず認知症にはならない。ところが、ものすごく頭のいい大学の教授の方も来られるのですが、やっぱり頭がいい方でも80過ぎてくるとちょっと忘れっぽくなるんですね。その時に様々なイベントやサークルに参加して、いろんな人と会話することが大事です、という話をしても、「俺はそんなのはやりたくない、家で専門書を読んでいたい」と、やっぱり一日中家にいる。その経過を見ていくと、予想通り途中からトイレができなくなるという症状が起こってしまうんですね。それは学歴に関わらず、もう80過ぎると必要なことは一緒なんです。いまの生活習慣が一番大事! なので、体を動かしたり、いろんな人とおしゃべりしたりすることが非常に重要ということが、コロナ禍を通してはっきりしました。

ステイホームが脳を委縮させる


 ステイホームでは、脳が機能低下し、さらに脳が萎縮して認知症になります。その数は増えていますが、ほとんどは予防できるのです。それについては、昨年、ちくま新書から「認知症パンデミック」という本を発刊しました。詳しくはそこに書いてあるので、お読みいただけると嬉しいです。

閉じこもりは脳を萎縮させる


 それから閉じこもりが脳を萎縮させるという、もっとはっきりした直接的な科学的証拠というのが2019年コロナの前なんですが、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンという非常に権威のある雑誌に載りました。これは、ドイツの南極観測隊が14カ月任務について帰ってきたら脳が縮んでいたという話なんです。なんでこんな測定をしたかというと、各国の南極観測隊が南極で任務をして帰ってくると、記憶力が低下するって報告が相次いだんですね。じゃあ、正確にその原因を調べましょうということでドイツがやったわけです。そうしたら、本当に海馬という記憶の中枢が7.2%萎縮していたんです。その隊員たちは平均年齢33歳と脳には何の問題もない若い人たちで、毎日仕事をしていたんです。それでも脳が縮んだ。それほど、閉じこもりは厳禁なんです。

 ほかに前頭葉とかも3%ぐらいでしょうか。これ33歳の平均年齢で毎日仕事をしていて、オンラインで本国との連絡をとって、だけど9人で同じ場所に同じ人たちと14カ月いただけで縮んでしまう。これは後でお話しするアミロイドベータというアルツハイマー病の病原物質っていうのは症状出る15年前ぐらいから溜まりだすと言われているんですが、33歳でいくら何でもそんなものはないんですね。つまり、どれほど正常な脳であっても、環境因というのはものすごく大きい。いろんな人に会っていろんなことをするということが、人間の脳にとってはどうしたって必要だということがはっきりしました。その正反対がステイホームなんですね。33歳の脳が委縮するわけですから、高齢者がステイホームしたらどうなってしまうのかという話になります。

集団のサイズと脳の大きさ


 そこでですね、集団のサイズと脳の大きさという研究があります。これは例えばサルであっても集団が多いほど脳が大きいんです。大脳新皮質という場所。要するにいろいろ判断したりする場所が大きくなるのです。類人猿になるとさらにですね、新皮質が大きくなる傾向があります。より複雑な問題に対処しなきゃならなくなることですね。人に関しては大体100人がちょうどいいサイズと言われています。50から150の間と。いくらグループが多ければ良いと言っても1000人とかっていうのはちょっと対応する能力を超えていますので、これぐらい。つまり集団のサイズが大きいほど、進化の過程で脳が大きくなってきたわけです。

 集団のサイズが大きいほど、脳が大きくなる理由ですが、それは、解決すべき課題が増えて多様化するからですね。それに対応するために、特に前頭葉が発達するわけなんです。実行機能と呼んでいますけど、何かをやる手順を実行機能と言いますけれども、そうすると、解決する問題が増えるごとに、それに対応する脳の回路が必要なので、どんどん増えていくわけです。新しいことに出くわすと、それに対応する脳の回路が増えて、脳の性能が良くなる。その反対に、家の中にいて作業をするということは、だいたいこれまで作業の繰り返しなので、脳の回路は増えていかないんですね。神経細胞の数というのは、年齢とともにちょっとずつ減っていくんですが、実は脳の回路は高齢になっても増えるんです! ですから、なるべくやったことのないことをトライしてくださいとか、行ったことのない場所へ行ってみてくださいとか、そういうことで回路が多いほど1個切断されても、う回路ができるわけですね。つまり、脳が壊れにくくなる。簡単に言うとですね。機能が低下しにくくなる。社会脳仮説と呼んでいます。

社会活動と認知機能


 これがですね、その社会脳仮説をまた裏付けるデータなんですが、社会活動に参加する機会が多い人ほど年齢を重ねての認知機能のスコアは下がりにくいということがわかっています。

後編はこちら
 
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